五十の春に 2
五十の春に 2
中野鈴子
いまようやくここまで歩いてきたところだ
誰かが呼んだと思うときもあったが
それは空耳だった
振り返って返事をしているわたしに
呼び止めたと思った人は気のつかぬ如く
とっとっと先の方を歩いて行った
わたしは一人とぼとぼここまでたどりついた
花の咲く頃には却って身を細くして
自動車をよけるような恰好になったものだ
ようやくここまでたどりつき
山道にさしかかったところだ
この山道を入ってゆくと道が分からないようにもなったり
高い崖や 危うい海岸へ出るようなことがあるかも知れない
誰もわたしを呼び止めないように
もう返事をするひまもない
青空文庫より引用
中野鈴子
いまようやくここまで歩いてきたところだ
誰かが呼んだと思うときもあったが
それは空耳だった
振り返って返事をしているわたしに
呼び止めたと思った人は気のつかぬ如く
とっとっと先の方を歩いて行った
わたしは一人とぼとぼここまでたどりついた
花の咲く頃には却って身を細くして
自動車をよけるような恰好になったものだ
ようやくここまでたどりつき
山道にさしかかったところだ
この山道を入ってゆくと道が分からないようにもなったり
高い崖や 危うい海岸へ出るようなことがあるかも知れない
誰もわたしを呼び止めないように
もう返事をするひまもない
青空文庫より引用